ブライヴ、イジーとの別れ




 ブライヴが狂って、襲いかかってきた。

ラニとのノクローンの旅の最後、災いが襲い掛かってきて、その姿がブライヴだった時に嫌な予感はしていた。

あの災いはラニと敵対している二本指が寄越した敵対者。そしてブライヴはその二本指がラニの従者として選んだ存在。

ではブライヴを選んだ二本指が敵対しているということは、選ばれたブライヴもそうなのではないか?

だからラニのそばにラニが一番信頼しているブライヴがいないのでないか? と。

その時はラニはもともと一人で行こうとしていたのだし、あの人形の姿になったことも二本指にしてやられたみたいだったし、気にしすぎだ。ラニの弱点を突こうと義弟のブライヴの姿を模しているだけだろうと。


だが実際はやっぱり嫌な予感の通りだった。

ブライヴはどうやら二本指によって狂い、イジーの手によって影牢に幽閉されていたみたいだ。

だが何らかの方法で影牢を脱出して、狂った状態でも、それでもラニの味方として動こうとして、ラニの魔術師塔まで来たみたいだった。

だがそこに当然ラニはおらず、なんとか耐えていたけれど、人、つまり私が塔に来たことで限界を迎えてしまったのだろう。

私に襲い掛かってきた。

私は最初は戦うかどうか迷いやられてしまったけど、狂った中でもラニを守ろうとしていたブライヴの姿を思い出して、彼をその影の運命から解放してあげようと決めた。


彼は強かった。

強力な冷気に、すごく間合いの広い独特の剣技を併せ持った戦い方は今まで戦った人たちの中でもとても強かった。

でもその戦い方は冷気がないだけであの災いと同じ。

そして私はそれを倒した。

つまり、彼の剣技を知る私のほうが有利で、そのまま私は彼を倒した。

彼は何も言わなかったけど、正々堂々とした決闘で、最後まで姉を裏切らずに逝けたのだから良い終わり方だったと私は信じている。


そうして彼を倒して、そのままイジーに知らせに行くと、彼はとても後悔した声でブライヴに謝っていた。

そしてそのまま黒い炎に呑まれて逝ってしまった。

ブライヴも、イジーも、死んだ。

ラニは体を失い、旅立った。(なぜかラニの部屋で意識の交信はできるみたいだけど)


ブライヴとイジーはともに二本指に殺されたのだろうか?

ブライヴはそうだ。

イジーは、よくわからないけれど、急な黒炎と彼がいつも身に着けていた兜の記憶の残滓から考えても、おそらく二本指にやられたのだと思う。


私はいままで、二本指への態度をあいまいにしていた。

たしかに二本指の敵対者であるラニに協力していたけれど、これは半分は友愛、もう半分はラニが先祖が忠誠を誓っていたカーリア王家の直系の王女様だったからで、二本指への敵意からではなかった。

なぜなら二本指や円卓は胡散臭いと思うけど、それでもそれだけだったからだ。

むしろ噂を流したのも二本指と円卓な気がするのでマッチポンプかもしれないが、それでも私を生き返らせて、人生の悲願だった狭間の地への来訪とその探索をできるようにしていたからだ。

だから火山館への協力もどうしようか迷っていた。


殺すのはいまさらだ。

私はこの狭間の地を探索するにおいてたくさんの命を奪って自らの力と為してきた。

自分の好奇心のために。

たしかに彼らは狂っていて正気を失ってはいるが、でもそれで私の罪が消えるわけでもない。

また狂っているわけでもなさそうな原生生物もたくさん殺している。

そして狂っておらず、ただ黄金樹を愛して守っていたマルギットをも殺した。

いまさらそれを同じ褪せ人だからできない、などと偽善者ぶるつもりはない。


だが同時に時には共闘もした彼らを殺す理由もなかった。

たしかに殺せば報酬は出る。

でも私は暗殺者じゃないし、そういったもののために戦っているわけでもない。

古騎士イシュトバーンとは狭間の地で最初のころ、亜人の親玉との戦いで一緒に共闘した。

まだ狭間の地で慣れていないころで、彼の協力がありがたかった。

大角のトラゴスとはあの楽しいラダーン祭でともに戦った。

いっぱいいて彼の戦いぶりはよくわからなかったけど、それでもラダーンを解放してやろうとともに戦った英雄だ。


彼らを殺す理由はない。

でも、火山館がなぜ二本指に反旗を翻しているのか。

火山館に深く入り込めばその理由がわかるかもしれない。

ましてやユーロ・ホスローや狼の戦鬼といった、よく知らない伝説上に名前が残るだけの英雄たちなんて、気にする理由は本当にない。

彼らと正気の状態で話し合えば、殺すよりよっぽど情報を得られるかと思っていたからためらっていただけだ。

たしかに正気で話せればそちらのほうがいい。

でもそれができないなら、あの扇動者のような口ぶりで嫌だが、私もまた一つ手を汚すことになるかもしれない。


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