考察:メリナはなぜ仲良くしてくれなかったのか? 彼女の決意と献身について




 

メリナ。

私と契約して、共に狭間の地の旅をした、私の相棒。

今は狂い火のことで喧嘩別れになってしまっているけど、二人とも死んでいないのだから、いずれ仲直りができると信じている。

そんな彼女は、どうにも旅の最中よそよそしかった。

話すことはかつてマリカが語った言霊を教えてくれるか、たまに断片的な身の上話をしてくれる程度。

でも彼女はボックを気遣ったり、私の旅の成就を願ってくれたりと、本当は優しい女の子だった。

ではなぜ彼女は旅の最中よそよそしく、あまり仲良くしてくれなかったのか?

本考察ではそのことについて語ろうと思う。


かつて王を目指した褪せ人たち

この謎を解く鍵は、おそらくかつて円卓で王を目指していた褪せ人たちにある。
エルデの王に最も近づいた褪せ人の一人、ヴァイク。
王たる英雄の鎧に相応しき男、ベルナール。
彼らは結局黄金樹を燃やさず、エルデの王にはならなかった。
なれなかったのではない。
ならなかったのだ。
その理由は、彼らの指巫女にある。
彼らの指巫女は、共にメリナのように自分の身を燃やすことで黄金樹を焼こうとし、それを褪せ人たちに止められた形跡がある。
これがメリナが必要以上に仲良くしてくれなかった理由なのではないだろうか?


エルデの王に最も近づいた褪せ人の一人、ヴァイク

順を追って話そう。
まずエルデの王に最も近づいた褪せ人の一人、ヴァイク。
彼の胴鎧:指跡の鎧には以下のような記憶が残されている。
円卓の騎士、ヴァイクの装備
ヴァイクは、かつて
エルデの王に最も近づいた褪せ人の一人であったが
突然に王都の奥深くに潜り、狂い火に焼け爛れた
それは、己の巫女のためだったろうか
あるいは何者かが、唆しを囁いたのだろうか


巫女のため。

あるいは何者かが唆した。

そして狂い火に焼けただれた。

私はこの内容にひどく覚えがある。

巨人の山嶺に足を踏み入れた時に私にメリナが死ぬことを伝えてきた男。

そして私が狂い火の王になるように唆してきた男。

そう、シャブリリだ。

シャブリリはかつて私にこう言った。


…ようやくお会いできましたね。

王となるべき、褪せ人よ。

…おや、妙な顔をなさいますね。

もしや、この体の元の主を、ご存知でしたか?

だとしたら、とても残念なことです。彼はもう死にました。

そして私、シャブリリに、この体を託したのです。

今後はよろしくお願いいたしますよ。

…貴方は今、犠牲にしようとしています。

哀れな小娘を、火の釜にくべようとしています。

…王となる、その道行のために。

なんとひどい話でしょうか。

たとえ彼女が望んだとしても、小娘の犠牲なしには、自らの道も行けぬ。

そんなものを、果たして誰が、王と呼ぶでしょうか?

…王となるべき褪せ人よ、険しき道をお行きなさい。

哀れな小娘をくべるのではなく、自らの体を焼きなさい。

もし貴方に、その覚悟があるのなら

険しくも、正しい王の道を行かんとするなら

シャブリリの言葉に耳を傾けなさい。

王となるべき褪せ人よ。

黄金樹の王都の下、遥か地の底に向かいなさい。

そして、三本指と、その狂い火に見えるのです。

狂い火を受領できれば、貴方は火種となり

もう、小娘をくべる必要はなくなります。

…正しい王の道を歩むのです。

混沌の王たるその道を。

黄金樹を燃やし、打ち倒し

我らを別け、隔てる全てを侵し、焼き溶かしましょう。

ああ、世に混沌のあらんことを!

世に混沌のあらんことを!

 

シャブリリは私と同じように、ヴァイクにも同じことを言ったのではないだろうか。

巫女を犠牲にしたくなければ、狂い火の王となれ、と。

そしてヴァイクは三本指に見えたが、鎧の上から三本指につかまれたため、鎧は指跡の鎧となり、ヴァイクは完全な狂い火の王にはなれず、発狂して果てた。

こうなってしまった原因は直接的にはシャブリリのせいだが、間接的にはヴァイクが自分の巫女を犠牲にしてでも黄金樹を焼けなかったことにある。

つまり、ヴァイクと巫女の仲が良すぎたため、ヴァイクは巫女を犠牲にすることができなかったのだ。

褪せ人と巫女の仲が良すぎたことが、彼らが使命を果たせなかった原因だった。


王たる英雄の鎧に相応しき男、ベルナール

王たる英雄の鎧に相応しき男、ベルナール。
火山館にいた背戦うことになってしまったが、その彼が纏う鎧には以下のような記憶が残っていた。
背律者ベルナールの装備
獣は英雄に惹かれ、王に惹かれる
故にこれは、王たる英雄の鎧であり
ベルナールはそれに相応しかった
彼の巫女が、火に身を投げるまでは

理由はわからないが、ベルナールの巫女は火に身を投げた。
狭間の地に、身を投げるほどの火なんて一つしかない。
おそらく巨人の火の釜に、メリナがそうしようとしたのと同じように。
そしてそれは少なくとも、ベルナールの視点からしたら大いなる意志によるものだったのだろう。
だから彼は大いなる意志に、黄金樹に弓引くことを決意した。
自分たちを駒のように扱う大いなる意志に復讐するために。
結果、ベルナールもエルデの王を目指すことを止め、背律者となった。
おそらくベルナールと彼の巫女は仲が良かったのだろう。
巫女が大いなる意志に殺されることで、すべてを棄ててでも大いなる意志に復讐しようと思うぐらいには。
これも結局、褪せ人と巫女の仲が良すぎたことが、彼らが使命を果たせなかった原因だった。


メリナの想い

メリナもまた、指巫女ではなくとも、黄金樹を燃やす使命を帯びた少女だった。
禁域につながる昇降機に隠された部屋には、使命の刃と呼ばれるこのような短剣が置いてあった。
使命に旅立つ者に与えられた短剣
この一振りには、その古い持ち主たる
種火の少女の力が残っている
炎と共に歩む者
いつか、運命の死に見えん


この短剣はモーゴットとの戦いの時、メリナが持っていた短剣と同じものだ。

下の図1を見てほしい。

メリナが持つ短剣と使命の刃の比較だ。


図1 メリナの短剣と使命の刃の比較


見てみると形が同じであることがわかる。

この使命の刃が、おそらくメリナの持つ短剣だったのだろう。

種火の少女、それが彼女の背負った運命の名前だった。


シャブリリと話した後、彼女は私にこう語った。

…伝えておきたい、ことがある

私の使命は、母から授かったもの

けれど、今はもう、私の意志になった

母の意志とは関係なく、ただ私が望む、世界の姿のために

私が、心に決めたもの

…誰にも、それを侮辱させない

もちろん、貴方にも


彼女は私に釘を刺したのだ。

私のためを本当に想うのなら、あんな男の口車に乗ったりせず、私を犠牲にしてでも黄金樹を焼いてほしい。

狂い火なんかに頼ることなく。

それこそが誰に決められたものでもなく、私が決めたことだから、と。


なぜ彼女が、狭間の地の旅の中、あまり私と仲良くしようとしてくれなかったかは、ここまででもうお分かりだろう。

私に指巫女のことをはじめに教えてくれたのはメリナだ。

彼女は、これまでの褪せ人と巫女たちの旅の顛末がどうなったかを知っていた。

だから、私と必要以上に仲良くしようとしなかった。

旅の終着点、巨人の火の釜の前で、私が彼女を犠牲にすることを拒み、狂い火に頼ることを防ぐために。

どこまでも健気で、使命に一途で、世界を愛していた。

メリナは、そんな女の子だった。



まとめ

まとめよう。
  • メリナは旅の最中、必要以上に私と仲良くしようとしなかった
  • その理由は、ヴァイクとベルナール、二人の褪せ人と巫女の顛末を知っていたから
  • 褪せ人と巫女が仲良くなりすぎると、褪せ人は巫女を犠牲にできなくなり、使命を果たせないことを知っていたから
  • だから使命を果たすために、彼女は私と仲良くなろうとしなかった

結局、私は彼女の想いを踏みにじり、三本指にこの身を委ね、狂い火の王となり、黄金樹を狂い火をもって焼いた。
そのことに後悔はない。
私は、たとえ彼女に嫌われようが、彼女に憎まれようが、彼女の人生を否定しようが、それでも彼女に生きていてほしかった。
嫌うことも、憎むことも、悲しむことも、すべて生きているからこそできることだ。
私は彼女に生きていてほしかった。
使命だけでなく、もっと世界の色んなことを知ってほしかった。
たとえ、彼女と決別することになったとしても。

それに、私だって勝算なく狂い火を拝領したわけじゃない。
王都地下で見つけた文書には、狂い火に抵抗するための方法が伝えられてあった。
神人ミケラが作った針。
それを使えば三本指にも抵抗することができる。
ただ問題はあの針、ミリセントに渡しちゃってるってことなんだけど。
さて、どうするべきか……

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