考察:ブライヴに対するラニの想い。ラニに対するイジーの想い


 

私は昔、一度だけ、ラニに強く怒りを覚えたことがある。

それは、私がブライヴを介錯した後のことだ。



ラニの魔術師塔の前で、二本指の呪いを受けてなお、ラニのために忠義を尽くし、黒き刃から守り続けていた彼……

ブライヴに別れを告げた後、私はなんとなく、ラニの部屋に行った。

もう彼女はそこにはいないと分かっていたが、なんとなく、彼女のいた場所で、ブライヴのことを思い出したかったのだ。


しかし、そこに彼女はいた。

正確に言うと、そこに現れた祝福を通して、旅立ったはずのラニと会話することができた。

私は驚き、ブライヴのことを話すかどうか迷っていた。

しかし、彼女がその時語った言葉は次のようなものだった。


……

…やはり気付くか。さすがだな

もう少し、話しておこうと思ってな

私の律について

私の律は、黄金ではない。星と月、冷たい夜の律だ

…私はそれを、この地から遠ざけたいのだ

生命と魂が、律と共にあるとしても、それは遥かに遠くにあればよい

確かに見ることも、感じることも、信じることも、触れることも

…すべて、できない方がよい

だから私は、律と共に、この地を棄てる

それでも、付いてきてくれるのだろう?ただ一人の、私の王よ


それだけ、だった。 

ブライヴについても、イジーについても何も言わず、彼女が語ったのは自分の律のこと、それだけだった。


…なぜ?

なぜ彼らについて、何も言わない?

彼女にとっては、彼らなんて所詮その程度の扱いだったのか?


私は、彼女に対して憤った。

あなたも、二本指の刺客として襲ってきた、ブライヴと同じ姿・戦い方をした影のことを知っているでしょう?

それなのになぜ、ブライブについて何も言わないの?

愛していると言ったところで、所詮あなたにとって彼らはどうでもいい存在だったの?


そう、怒ったが、しばらくして、気づいた。

彼女は何も知らないのだと。

イジーが、彼女に何も心配をかけずに、自分のことだけを考えるようにしてもらうために、彼女に何も教えなかったのだと。


考えてみればおかしいのだ。

例えば、ラニに指殺しの刃を持って行った時、彼女はこう語っていた。


…ああ、お前だったか

ブライヴでは、なかったのだな

分かっている。眠りの中でも、感じられたよ

手に入れたのだろう?ノクローンの秘宝を

感謝する。これで、ようやく全てが揃った

後は、私が行くだけだ。私だけの暗き路を


彼女は、ブライブが指殺しの刃を持ってくるのだと、期待していた。

つまり、彼女はブライヴが影牢に閉じ込められていることも、そして二本指の呪いに苦しめられていることも、知らなかったのだ。


また、彼女はブライヴについて以下のようにも語っていた。

…私が、二本指を拒んだ時

それでもブライヴは、私の味方でいてくれた

フフッ

神人たる私の、特別な従者であるというのに

二本指にしてみれば、とんだ出来損ないだったろうな

…ブライヴも、イジーも、私には過ぎた者たちだよ

知っているはずなのにな。私の行く暗い路の先を

私がいつか、すべてを裏切り、棄てることを

…ああ、お前も加えるべきだったか?

お人よしということでは、奴らとよい勝負だろうしな


 彼女は、ブライヴとイジーが自分の仲間であることを信じ切っていた。

一かけらも疑っていなかった。

事実、ブライヴにそっくりな災いの影を倒した後に、彼女はこのように語っていた。

…見事な戦いだった。

感謝する。手間をかけさせてしまったな

だが、これでやっと、あやつに至れる

…お別れだな、お前

ブライヴとイジーに、伝えてくれ

…愛していると


少しでも、災いの影がブライヴだと疑っていたなら、こんな言葉は出てこないだろう。

実際、あの災いの影は、ブライヴではなかった。

彼の一番の特徴である、ラニに忠誠を誓った証である、冷気を使っていなかったからだ。


カーリア王家の意匠が施されたグレートソード

半狼のブライヴの得物

生まれ落ちた運命に背き

ブライヴが、ラニだけに仕えると誓ったとき

この剣は誓いの証となり、冷たい魔力を帯びた


ブライヴに冷たい魔力を与えたラニは、分かっていたのだろう。

目の前にいる影が、ブライヴでは決してないことを。

そして、彼女は信じていたのだろう。

ブライヴは、彼女の騎士は、今も自分の塔で彼女が星の世紀をもたらすことを待っているということを。


そう、彼女は何も知らなかったのだ。

ブライヴが二本指に呪われ、狂い、私に討たれたことも。

イジーが黒き刃に襲われ、その身を黒炎に燃やされ、息絶えたことも。

彼女に心配をかけないために、彼女が前だけを見据えられるように。

イジーは何も伝えなかったのだ。

彼の、親心のようなものによって。


だから、私は結局彼女に何も言わなかった。

彼らの遺志を、守るために。


そして、私はこの時誓った。

彼女を、彼らに代わって、守り抜くことを。



あなたたちのことが、好きでした。

家族のように暖かくて、いつも互いを想い合っているあなたたちが。


ブライヴも、イジーも、もういないけれど。

彼らを救うことは、もうできないけれど。

それでも、まだラニがいる。

彼らが命を賭して守りたかった彼女は、まだ生きている。

なら、私がすべきことはひとつしかない。



私の、本当の騎士としての誓いは。

彼女に忠誠を誓った本当の始まりは。

きっと、この時だった。

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