考察:コーラルの相変異とは何か? アイビスの火は本当に必要だったか?



コーラルというエネルギー、いや、生物をご存知だろうか?

コーラルというのはルビコン星系第三惑星、惑星ルビコンで見つかった画期的なエネルギーだ

食料にも、エネルギーにも、情報導体にもなるそれは、人類社会に飛躍的発展をもたらすと嘱望された

しかし、半世紀ほど前、災厄は起きた

コーラルの爆発がルビコン星系を飲み込んだ大災厄

その炎と嵐はルビコン星系のみならず、その周辺星系をも巻き込み、致命的な汚染を残した

その元凶となった機体たちの名前からアイビスの火と呼ばれるそれは、多くの人間を殺しつくした、悪夢そのものだった


アイビスの火

だが、実はこの大災厄は自然的に発生したものではなく、人為的なもの、人災だった

コーラルを研究していた、アイビスの火の発生源であるルビコン技研都市の責任者、ナガイ教授の遺した筆記には以下のようにある


まずい
コーラル潮位が異常な速度で上昇している

この共振は相変異の…
計算しろ 猶予は?

47時間2分16秒

間に合う
アイビスを出せ!


アイビスの火を、あの大災厄を起こし、ルビコン星系を滅ぼしたのはナガイ教授だった

 ではなぜ彼はアイビスの火を起こしたのか?

その答えは以下の記録にある

コーラルは自己増殖する生体物質であり
その増殖速度は個体群密度の影響を受ける

例えば真空状態
これは密度を最大化する理想的環境のひとつと言える

重要なのは密度効果による
「相変異」の兆候を見逃さないことだ

それは人類には制御できない破綻となる


コーラルが増えることによる起きる相変異

彼はコーラルの相変異が起こることを予期し、そのためにルビコン星系ごとコーラルを焼き払った…

では、そのコーラルの相変異とは何だったのか?

そしてそれは、ルビコン星系を滅ぼしてでも防がなければいけないものだったのか?

本日の考察では、このことについて話したい 


相変異

まず、考察を始める前に、使われている用語の整理を行おう

そもそも相変異とはどういう言葉か?

相変異とは、生物学での用語だ

生物個体群の密度に大きな変化があるときに、同一種の個体に形態・色彩・生理・行動などの著しい変化が現れる現象のことを指す

有名な事例としては、ワタリバッタの大量発生により相変異を起こして発生する、蝗害などが挙げられる

通常ではそこまで危険度の無いワタリバッタが、大量発生によりその形態を変え、大量に集まるようになり、植物をなんでもたくさん食べるようになり、その進路上のものをすべて食い尽くす大災厄だ

その進路上の人間はみな飢饉に襲われ、そのあまりの脅威からアバドンとして世界を滅ぼす7つの災厄の一つとまで言われている

生物の集団の密度に大きな変化があったときに、その生物の特徴が大きく変わってしまうこと、と認識してもらえればいい


コーラルの相変異

ナガイ教授の説明からも、おそらくコーラルの相変異もこの生物学における相変異と同じものだろう

個体群密度の上昇に伴って起きるだろう形態の変化を、おそらく相変異と呼んでいるのだと思われる

コーラルが群生相(たがいに近づこうとする習性)を持つ生物であることからも、おそらくこれは正しいだろう

では、コーラルの相変異、個体群密度の上昇に伴って起きるだろう形態の変化とはどのような変化だろうか?

ルビコンでのコーラル争奪戦を知る方々が真っ先に思い付くであろうものはコーラルリリースだろうが、おそらくこれは違う

では次は、なぜコーラルの相変異はコーラルリリースではないのか、について語っていきたい


コーラルリリース

なぜ私がコーラルの相変異とコーラルリリースは異なるものだと考えるか?

それは、ナガイ教授の遺した記録からは、コーラルリリースに必要な3つのトリガーを満たしていないと思われるからだ

コーラルリリースに必要な3つのトリガーとは何か?

それはオールマインドの言葉や記録から、以下のものだと思われる


第一条件=真空中のようなコーラルの密度を最大化するための理想的環境に集積した多量のコーラル


第二条件=変異波形と交信が可能な、第4世代以前の強化人間


第三条件=人間と交信可能なコーラルの変異波形


これらの条件やコーラルリリースとは何かについてはまた違う考察で話すとして、この中で当時明らかに足りていなかっただろう条件が一つ存在する

それはコーラル変異波形だ

ナガイ教授の遺した記録には以下のように遺されている


技研もルビコンも壊滅は避けられない
問題はそのあとだ

変異波形発生の兆候も見られる
観測を続けなければ

頼れるのはもはや第2助手しかいない
私にできるのは 教え子に業を背負わせることだけだ…


変異波形発生の兆候も見られる、とある

つまり、アイビスの火以前に変異波形は発生していなかった、もしくは最低でも変異波形の発生を認識していなかった、ということになる

これではコーラルリリースは起こせない

少なくとも47時間後までに条件を自動的に満たすものではない

実際には第一条件も満たしていないと思われるが、明確に満たしていないのは第三条件となる


コーラル変異波形

では、コーラルの相変異とは何だろうか?

その答えは、先ほどの口述筆記に遺されている


変異波形発生の兆候も見られる
観測を続けなければ


ナガイ教授はコーラルの相変異を恐れて、アイビスの火を起こした

そして、アイビスシリーズに火を放つように命じた後も、変異波形発生の兆候を恐れ、観測を続ける必要があると語っている

コーラルの変異波形とは何か?

それは、エアやセリアのような、意志を持ちコミュニケーション可能な能力を備えたコーラルだ

通常のコーラルとは 形態・生理・行動などが著しく異なる、もはや別種の生物と言っていいような存在だ

そして相変異とは、生物個体群の密度に大きな変化があるときに、同一種の個体に形態・色彩・生理・行動などの著しい変化が現れる現象のことを指す


つまり、ナガイ教授の恐れた、コーラルの相変異により発生するものとは、コーラルの変異波形、エアやセリアたちのことだと思われる


ドルマヤンとセリア

実際、ドルマヤンがコーラルとの共生を強く意識しだしたのはアイビスの火を生き残った後だ

青年期を流浪のドーザーとして過ごしたドルマヤンは
アイビスの火を生き残った後 コーラルとの共生を
強く思考するようになる

また、ドルマヤンの随想録には以下の記述がある

「共生」
彼女はその言葉の意味を考えているようだった

私たちの幸福な時間は
彼女の同胞の犠牲の上に成り立っている

こんなものが共生で良いはずがない…

彼が共生を強く意識しだしたのはセリアと会話をするようになってからであることがうかがえる

これらのことから、アイビスの火以降、ドルヤマンはセリアに出会ったのではないかと思われる

アイビスの火でナガイ教授の観測した変異波形の兆候でセリアやエアは生まれたと考えると、時期的にもつじつまが合う


ナガイ教授

おそらく、コーラルリリースの論文が技研都市にあったことから、コーラルの相変異後の形態や生理、行動はナガイ教授はある程度予想できていたはずだ

じゃないと人間と交信可能な変異波形なんてものが第三条件にならない

変異波形発生以前のコーラルは、ほとんど習性しか持たない、コミュニケーション可能な知性を持つ存在とはかけ離れた生物群だったからだ

なのでナガイ教授が恐れたのは、コーラルの相変異でコーラルがどうなるかが分からなかったからではなく、人格を持ちコミュニケーション可能なコーラルが発生することだった

そしてそれを防ぐためにコーラルを燃やし、アイビスの火を起こした、ということになる


コーラルの量

また、この仮説への反論として、相変異とは増殖速度が一定値を超えることで人間の手に負えない増殖速度になるということを指しているのではないか? という指摘もあるだろう

それも一理ある

が、ある理由から違うのではないかと考えている

その理由は単純に、量的な問題だ

アーキバスがバスキュラープラントを大気圏外まで延伸させたとき、明らかにコーラルの量はあの技研都市を埋め尽くすほどのコーラルがあったとしても、それ以上に量があっただろう

あの時のバスキュラープラントは、ルビコン技研都市にあったバスキュラープラントを、大気圏外まで延伸させて、惑星外からも大きく見えるほどの大きさになっていたからだ

ザイレムが直撃した時もかなり上部に直撃したが、そこからもコーラルは溢れ出していた

つまりあそこまでコーラルは詰まっていたはずだが、その状態でも手に負えない増殖速度、例えば指数関数的に増えていくようにはなっていなかったはずだ

それならとっくの昔にあの大きさのバスキュラープラントすら溢れ出していたはずだし、アーキバスも手に負えない状況になっていたはずだが、アーキバスはそんな様子はなかった

あの量ですらそんな状態にならないのだから、大気圏内で真空状態になるわけがない当時のルビコン技研都市で、47時間後にアーキバスが延伸したバスキュラープラントよりもコーラルが増えて手に負えない増殖速度になるとは到底思えない

当時のルビコン技研都市で増えることが可能だろう最大量よりも多いだろう状態のコーラルですら、制御可能な範疇の増殖速度であったことから、相変異で起きる事象が制御不可能なほどのコーラルの増殖速度であった可能性は低いと私は考えている

まとめ

まとめよう。

  • 相変異とは生物学の用語であり、生物個体群の密度に大きな変化があるときに、同一種の個体に形態・色彩・生理・行動などの著しい変化が現れる現象のことを指す
  • アイビスの火を起こす以前に変異波形は技研に発見されていなかったため、コーラルリリースは47時間後には起こらない
  • よって、コーラルの相変異とコーラルリリースは別のもの
  • コーラルの相変異で起きる形態や行動の著しい変化の結果生まれたコーラルが、エアやセリアのようなコーラル変異波形だと思われる
  • アーキバスが大気圏外まで延伸させたバスキュラープラントにコーラルを詰めていても異常な増殖速度にはなっていなかったようなので、増殖速度が指数関数的に増えるなども考えづらい

自己増殖をして情報導体にもなり、燃やせば大きな爆発をするエネルギーが人格を持つことを恐れる気持ちは分かる
実際にコーラルの相変異で生まれる変異波形がどのような人格を持つかも、そもそも人間と相容れる価値観を持つかもわからないからだ
結果的にエアやセリアのようなコーラル変異波形は非常に温厚で寛容な人格の持ち主だったが、それは結果論にすぎない
普通に考えると、自分たちをエネルギーとして消費する生物に好意的な振る舞いをしない
彼女たちが特異的に優しすぎただけだ
なので、ナガイ教授がコーラルの相変異を恐れた気持ちは分かる

だが、その恐れを払う対価として、アイビスの火はあまりに大きすぎる被害ではないだろうか?
ルビコン星系を燃やし尽くし、周辺星系にも致命的な汚染を振りまくような大災厄は
コーラルの相変異を恐れるなら、コーラルが増殖をしてそれによって相変異を起こす生態だと分かった時点で焼くべきだった
逆にギリギリまで研究を続けるほどコーラルに可能性を感じていたのなら、変異波形がどういうものになるかを観測するまで待つべきだった
兆候を見逃さないことが大事だ、と最初の筆記では言っていたが、その兆候が起きた時点で燃やしてもとてつもない被害が起きることがわかっていただろうに
兆候を見逃さずに燃やした結果が、アイビスの火なのだから

ナガイ教授は中途半端だった
そしてその結果起きた災厄がアイビスの火だった

可能性が人を狂わせる
コーラルはその最たるものだ
これはナガイ教授の言葉だ
そして、ナガイ教授もまた、コーラルという可能性に狂った科学者の一人だったのだろう
私は、そう思う




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