考察:エアの発生メカニズムを、人の脳神経細胞から考える

 コーラル変異波形

それは、エアやセリアのような、思考と感情を持ち、コミュニケーションが取れる、本来のコーラルとはかけ離れた存在だ

なぜ彼女たちはあのように変異したのか?

どういうメカニズムで、どのような発生機序の元に生まれたのか?

今回の考察では、そのことについて語ろうと思う


大量のコーラル

以前、私は、【アイビスの火は本当に必要だったかを、コーラルの相変異から考える】という考察で、コーラルの相変異によってコーラル変異波形は生まれたのではないか? という仮説を立てた

これ自体は必ず正しいわけではないが、ただ、コーラルが大量に集まることによってコーラル変異波形が誕生するのはほぼ間違いないと思われる

理由は、以下のナガイ教授の記録にある

コーラルは自己増殖する生体物質であり
その増殖速度は個体群密度の影響を受ける

例えば真空状態
これは密度を最大化する理想的環境のひとつと言える

重要なのは密度効果による
「相変異」の兆候を見逃さないことだ

それは人類には制御できない破綻となる
技研もルビコンも壊滅は避けられない
問題はそのあとだ

変異波形発生の兆候も見られる
観測を続けなければ


これは、ナガイ教授が最後に遺したと思われる記述だ

ここに、変異波形発生の兆候も見られる、とある

この時は、コーラルが異常な速度で増殖し、コーラルが大量に増えた結果、コーラルを焼かなければいけないとナガイ教授が判断した後の話だ

つまり、因果関係的には、コーラルの密度の上昇とそれに伴うコーラルの大量発生 → 変異波形発生の兆候、となる

よって、コーラルの個体群密度が上昇して増殖速度が増加し、大量に増えることでコーラル変異波形が発生する、という仕組みが読み取れる

コーラルが大量かつ高密度で一か所に発生することで、コーラル変異波形が生まれるのだ


既視感と一本の論文

では、次は、なぜコーラルが大量に集まることでコーラル変異波形が生まれるのかについて考えてみよう

それを考えるにあたって、私はある既視感と一本の論文の存在を思い出した

既視感はこれだ

画像は東京大学の研究より引用



左はヒト由来のiPS細胞を分化させて人間の脳の神経細胞に誘導したものを免疫細胞染色で可視化したもの

つまり、ほぼ人間の脳の神経細胞を可視化したものと同じものと考えてほしい

そして左側はご存知の通り、エアの姿だ

似ているとは思わないだろうか?

私は昔脳の研究をしていた時期があったので、こういったものをよく見たので、このエアの姿に強い既視感を覚えた

エアの姿は人間の脳の神経細胞のネットワークに非常に似ている

エアはコーラルが変異した波形だ

エアの姿を見ると、これはコーラル同士がつながってネットワークを形成し、そのネットワークが意志や人格を持っているのだと思われる

このネットワークが人間の脳細胞のネットワークに酷似しているというのは、非常に示唆的な意味を持つと思われる


もう一つはある論文の存在だ

題名を「Neuromorphic electronics based on copying and pasting the brain」(脳のコピー&ペーストに基づくニューロモルフィックエレクトロニクス)という

今はもう遥か昔、人類がまだ地球にしか住んでいなかった頃の、西暦21世紀と呼ばれた時代の論文だ

発表者はサムスン電子とハーバード大学の研究者たち

内容を簡単に言うと、人間の脳の神経形態を模倣して、認知・推論など脳の高レベルな機能を半導体チップ上で再現するというものだ

神経ネットワークの機能的なシナプス接続マップをコピーして、それを半導体メモリの三次元ネットワークに貼り付けることで、人間の脳の機能を再現できるのではないか? という論文だ

半導体メモリというのは、半導体の回路を電気的に制御することで、データを記憶保持する役割を持つ半導体回路装置だ

データ、情報を記憶保持する導体と言える

つまり、情報導体だ

よってこの論文は、人間の脳のネットワークのマップを、情報導体のネットワークにそのまま貼り付けることで、人間の脳の機能、感情や知性を再現できるのではないか? という内容を意味している

そして、君たちはこの言葉を覚えているだろうか?

コーラルと呼ばれる物質がある
辺境の開発惑星、ルビコンで発見されたそれは
新時代のエネルギー資源および情報導体として
人類社会に、飛躍的発見をもたらすと嘱望された

そう、コーラルは情報導体だ

つまり、この論文の理論が正しいならば、コーラルのネットワークに人間の脳のネットワークのコピーをペーストすれば、コーラル上で人間の感情や知性を再現することが可能ということを意味している


コピー&ペースト

コーラル変異波形のネットワークは人間の脳神経細胞のネットワークに酷似している

コーラル(情報導体)のネットワークに人間の脳のネットワークのコピーをペーストすれば、コーラル上で人間の感情や知性を再現することが可能である


この既視感と論文の内容から、ある結論が導き出せる

エアやセリアのようなコーラル変異波形は、大量に集まったコーラルという名の情報導体の集合に、人間の脳のネットワークをコピー&ペーストすることで生まれたのではないか? という結論だ

そうだ、そもそも自然に産まれたとしては、エアやセリアはあまりにも人間に似すぎている

偶然で、あそこまで人間に似るとはとても考えづらい

なんらかの知生体のサンプルとして人間の知性の構造、すなわち脳のネットワークを学習した、と考えるのが必然性という意味でも納得できる


エアたちの原型

では、コーラルは誰の脳のネットワークをコピーしたのだろうか?

可能性はいくつかあるが、一番可能性が高い人物は第一助手の妻だった人物ではないだろうかと私は思う

そして彼女は、ハンドラー・ウォルターの母親だった人物でもある

私がそう考えた理由は二つある

一つは、現在確認しているコーラル変異波形が二人とも、女性の人格を持っていることだ

二例なので偶然の可能性もあるにはあるが、両方とも女性なことに理由があるのならば、それは元となった人格もまた女性であった可能性が一番高いだろう

もう一つは、かつてのルビコン技研都市の名前が出ている関係者で、唯一研究の犠牲者として死んでいて、かつ女性なのが彼女だからだ

ナガイ教授の記録には以下のようにある

第1助手の子息をラボで引き取ることにした
寡黙で気丈な 鉄のような少年だ

研究は彼の母親を奪い 父親を狂わせた
私を恨んでも良いだろうに…

第2助手の力も借りることにしよう
あれは玩具を作るのが得意だったはず

少年が笑ってくれると良いが

研究は彼の母親を奪った、とある

そして狂った父親の研究はこれだ

    第1助手の様子がおかしい
    明らかに研究に取り憑かれている
    
    Cパルスで人間の知覚を増幅するなど
    理屈は通っていても許されるものではない
    
    可能性が人を狂わせる
    コーラルはその最たるものだ


    Cパルスで人間の知覚を増幅する研究を行っていたのが第一助手だ

    これは推測だが、彼はその被験者を彼の妻にお願いしていたのではないだろうか?

    そしてエアは以前このように言っていた

      目覚めてください
      あなたの自己意識が、コーラルの流れに散逸する、その前に

      これは621が致死量のコーラルを浴びたあとの話だ

      つまり、コーラルによる強化人間が大量のコーラルを浴びることで、自己意識がコーラルの流れに散逸する

      同じことが、第一助手の妻にも起きたのではないだろうか?

      Cパルスで人間の知覚を増幅する実験の最中、致死量のコーラルを誤って脳に投入してしまい、彼女は耐えきれず自己意識がコーラルの流れに散逸してしまった

      そしてその意識が、コーラル変異波形の原型となった

      そしてコーラルが大量に集まることによって、その原型を元にコーラルがネットワークを形成し、それがエアやセリアのようなコーラル変異波形となった……

      こう考えればすべての事象が一本の線でつながる

      細かい流れは違う可能性はあるが、大まかには上記のような流れでエアやセリアのようなコーラル変異波形が生まれた可能性が高いのではないかと、私は考えている


      まとめ

      まとめよう

      • 人間の脳細胞とコーラル変異波形のネットワークは酷似している
      • 大量の情報導体に人間の脳のネットワークをコピー&ペーストすることで、人間の知性や感情を再現可能とする論文がある
      • この二点から、大量のコーラルに人間の脳のネットワークをコピー&ペーストすることでコーラル変異波形は発生したのではないか?
      • そして、そのコーラル変異波形の原型となった人物とは、第一助手の妻でありハンドラー・ウォルターの母親であった女性なのではないだろうか

      アイビスの火発生前後には謎が多い
      おそらく関わっているだろう第一助手の形跡が残っていないことなど、その最もたるものだ
      ただ、今回の考察を元に考えると、ある推測が生まれる
      もしかして、彼は実験による失ってしまった、コーラルの流れに散逸してしまった妻を取り戻すために、大量のコーラルを集めようとしたのではないだろうか?
      コーラルリリースの論文があったことから、コーラル変異波形が発生しうるということは技研は予測していたはずだ
      だから、大量のコーラルを集めることで、コーラルの中に散逸してしまった妻を取り戻そうとしたのではないだろうか?

      まぁ逆に、コーラルリリースを起こすことが第一助手の目的で、そのためのコーラル変異波形を発生させる人格の原型として、妻を生贄にしただけなのかもしれないが……

      ただどちらにせよ、ウォルターが哀れだ
      この考察が正しければ、彼はコーラルでほぼすべてを失い、そしてそのコーラルを根絶させるために生涯を捧げていた
      そのコーラルに母親を人格を原型とした変異波形、言ってしまえばある意味叔母か自分の妹のような存在の人格がいて、それごとすべて滅ぼそうとしていたと考えると……
      もしかしたら、コーラルの爆発を防ぐために戦ったあの日、ウォルターが最後に見て、銃を降ろしたエアの姿は、彼の母親に似ていた姿だったのかもしれない
      もしそうだとしたら、それは彼にとって救いだったのか、それとも絶望だったのか……
      ただ、彼の最期の穏やかな声から、あれが彼にとっての救いだったならいいな、と私は願いたい

      それでは、本日の考察はここまで
      ご清聴ありがとうございました
      ルビコンよ、コーラルと共にあれ
      されど、コーラルを恐れるなかれ

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