考察:ラニの出会った暗月とは何か。永遠の都から受け継がれた悲願、夜の律について




ラニ。

雪の魔女、カーリアの王女、神人、陰謀の夜の主犯。

様々な異名を持つ彼女は、幼い時、母レナラに手を引かれ、冷たく暗い神秘の月に会ったという。

それこそが暗月。

そしておそらく、彼女が夜の律を求めるきっかけとなった存在。

では暗月とは何なのか?

彼女と共に歩む者として、今こそこの命題に挑もうと思う。



永遠の都から受け継いだもの

【考察:永遠の都から続く系譜。二つの魔術の都、サリア魔術街とカーリア王家の源流について】の稿で、私はカーリア王家が永遠の都を受け継ぐ存在であると述べた。

また胴鎧:ノクス僧の鎧には以下のようにある。
太古、大いなる意志の怒りに触れ
地下深くに滅ぼされた、ノクスの民は
偽りの夜空を戴き、永遠に待っている
王を。星の世紀、夜の王を

そして、かつてラニはこう語っていた。
私の律は、黄金ではない。星と月、冷たい夜の律だ。
…私はそれを、この地から遠ざけたいのだ。
生命と魂が、律と共にあるとしても、それは遥かに遠くにあればよい。
確かに見ることも、感じることも、信じることも、触れることも
…すべて、できない方がよい
だから私は、律と共に、この地を棄てる
それでも、付いてきてくれるのだろう? ただ一人の、私の王よ


永遠の都をカーリア王家は引き継いでいる。
その永遠の都のノクスの民は、滅ぼされてなおあきらめず、永遠に待っている。
夜の王がもたらす星の世紀を。
ラニが選んだのは星と月、冷たい夜の律。
そしてラニが選んだ時代は星の世紀。

これらのことから、ラニが持っている律は永遠の都から引き継がれた律なのだと思う。
そしてこのことから、ラニが出会った暗月が何なのかも推測できる。

暗月とは、かつて永遠の都に存在した黒い月だ


暗月と黒い月

暗月というのは新月のさらに前、月がまったく見えない状態を指す言葉だ。
以下の図1のような新月の、かすかに見える月の縁すら見えなくなった月を指す。
まさしく黒い月だ。
図1 暗月


また黒い月はいくつかの文献で存在を確認できる。
タリスマン:ノクステラの月いわく
永遠の都、ノクステラの秘宝
「伝説のタリスマン」のひとつ
記憶スロットを増やす
それは、彼らが失くした黒い月を模している
ノクステラの月は、無数の星を従えていた


またメモリ・ストーンにいわく

黒く薄い謎めいた石

それを加工した、魔術師たちの秘宝

記憶スロットを増やす

それは、かつて永遠の都が見上げた

黒い月の欠片であるという


と、ある。

かつて永遠の都ノクステラは黒い月を見上げていた。

その月は無数の星を従えていたが、ある時失われた。

そして黒い月の欠片は今はメモリ・ストーンにのみ、その片鱗を残している。


伝承を見るに、黒い月は永遠の都の象徴的存在だ。

永遠の都、ノクステラの系譜であるカーリア王家もこの黒い月の存在を伝えていたはずだ。

無数の星を従える冷たい暗き月、星と月、冷たい夜の律として。

そしてラニはレナラに手を引かれてこの失われたはずの黒い月にまみえた。

そして夜の律、星の世紀を教えられたのだろう。

ラニの持つ夜の律は、永遠の都から受け継がれた執念であり、悲願なのだ。


レナラの意志とラニの選択

しかし、ラニは夜の律が世界に敷かれることを拒絶した。

私はそれを、この地から遠ざけたいのだ。
生命と魂が、律と共にあるとしても、それは遥かに遠くにあればよい。


彼女は永遠の都から受け継がれた悲願を、拒絶した。

その理由は、おそらく雪魔女の教えによるものだろう。

魔術:輝石の氷塊には以下のようにある。

老いた雪魔女が用いたという魔術

杖の輝石から、冷たい魔力の塊を放つ

足を止めずに使用でき、連続でも使用できる

老魔女は、幼少のラニに教えたという

冷たい魔術と、暗い月への恐れを


老魔女は幼少のラニに教えたのだ。

暗い月、そしてそれがもたらす夜の律への恐れを。

だから彼女は夜の律を世界に敷きたくはなかった。


しかし、それは永遠の都から続く悲願への裏切りであり、カーリア王家への裏切りであり、そして、彼女に暗月を見せてくれた母レナラへの裏切りでもある。

だから彼女はすべてを棄てる旅路へ旅立つことを、迷っていた。

しかしレナラを倒した後、レナラはこう言った。

…ああ、ラニ、私の小さな娘よ。

貴方の夜をお行きなさい…


彼女にはわかっていたのだ。

娘が自分と、今まで紡いできた自分たちの悲願と違う道を、違う夜を歩もうとしていることに。

しかしレナラはそれを許した。

そして娘の背中を押した。

彼女の小さな娘を、ラニを愛していたから。



そうしてラニは旅立った。

律と共に、この地を棄てる、孤独な旅路に。

……でも、まだ私がいる。

ブライヴが死んで、イジーも死んでも。

まだ、私が彼女のそばにいる。

彼女の王として、彼女に仕える騎士として。

だから私は戦う。

私が、彼女を独りにさせはしない。






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